物作りを通して見えてくる事は、人々の生活、自分自身を見つめる事、そして人間らしく生きる事のすべてだと感じている。物を作る事は物理、数学、哲学、科学、歴史などありとあらゆる分野の知識、経験を必要とする。
 自身の製作においては木、繊維、漆などの自然素材を扱うなかで、素材との対話を大切に考えているし、なによりもそうせざるを得ない。
 素地となる木については、製材、乾燥を経て使えるようになるまで膨大な時間がかかる。少しずつ目的の形に近づけながら乾燥させる必要があるからだ。木が育ってきた時間から考えれば僅かな時間と言い聞かせてみても、作家として歩み始めた頃は待ちきれない思いだった。
 塗りに使う漆についてはウルシの木を育てる活動により、近年やっと自身で植えたウルシから漆が採取できるようになってきた。苗から漆が採取できるまでには15年程度の歳月が必要で、採取されたあとは伐採し、その周りに生えてくる萌芽を育て、また時を待つ。1本のウルシから取れるコップ一杯程度の貴重な漆もすぐに使えるわけではなく精製してはじめて上塗りの漆となる。原材料に近づけば近づくほど、制作に入るまでに多くの時間を必要とするが、素材となるまでに多くの人の関わりがあって使わせてもらう感謝の気持ちが生まれ、次世代へ伝えなくてはいけない気持ちが強くなっている。
 自身の制作と並行して、大学で指導する機会を得て、主に木工を主とした器や家具などのデザインから制作までを指導してきた。制作を通して、自身の中にある感性との対話を大切にしてほしいと考えている。それは素材を扱う過程で自然と引き出されるように思う。
 物作りは技術的な要素が多く、習得に時間がかかる。本来自らの要求で必要な技術を身につけるべきなのに、先に技術を習得することになる場合が多い。指導において常に自問自答している事柄である。物事を観察し、なるべく素材や技術の本質の部分から、必要な技術を選びとる力が必要で、機械やデジタルファブリケーションを利用したとしても、最終的には刃物の動きなどを手で感じつつ、素材に導かれる体感をしてほしいと考えている。
 近年デザインという言葉が表面的な装飾ではなく、時間の感覚や物の価値観にまで踏み込んで語られている様に思う。なぜそのかたちが必要なのか、その物が役目を終えたときはどうなるのか、原材料はどこから来たのか、環境に負荷を与えていないか。サステナブルやフェアトレードの考え方など、それは自然素材を使ったクラフトデザインにとって、常に意識してきたことである。
 ナチュラルマテリアルプロジェクトという日本の自然素材を取材し、日本のみならず世界に紹介する活動に参加してきたが、使い手の関心はとても高く、海外でも同じ反応が得られた。人々がものが生まれる背景や物語を求めていることも強く感じることができた。 本来、人は自然から学び、その中から必要な物を作ることを繰り返してきた。自身の研究テーマである木や漆を使った物作りを通して生まれる人と自然の関係、人と人の関係について研究し、指導して行きたい。
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